「こんばんは」 「黒子? なんでここに居るんだ」 居間の障子を開けると、にこやかな母親と向かい合って黒子が座っていた。 黒子は控えめにお辞儀をすると、お邪魔しています、と小さく笑う。 ふわふわした空色の髪が視界の中で揺れた。 玄関入って居間に続く廊下に母親の高らかな声が響いていたので誰か来ているとは思ったが、まさか後輩、しかも現在お付き合いしている相手が居るとは思ってもみなかった。 「黒子君とばったり家の前で会って、上がってもらったの」 やけに上機嫌な母が、両手を胸元で手を合わせながら嬉しそうに話し出す。どことなく声が弾み、目がきらきらして見えるのは気のせいではないだろう。 そもそも黒子とは数回会っただけなのに、なんで二人の間にこんなにも和やかな雰囲気が漂っているのか不思議だ。 ちらりと黒子の手元に目を向ければ、湯飲みに入ったお茶が半分以上減っている。いつ来たのか分からないが、少し前という感じではなかった。 「さっき部室を一番に出て行ったよな?」 今日は本の発売日だと言っていたので、真っ先に部室を飛び出したのはそのためだと思っていたがどうやら違ったようだ。 自分はというとあれから日向達と部室で話しこんでしまったせいで学校を出たのは少し遅くなったが、それにしても黒子が帰ってからそんなには時間が経ってない。この短時間で二人に何があったのか。 「近くを通りかかったら、たまたまお母さんに会って」 「そうなのちょっとお話したら楽しくなっちゃって、それで上がってもらったの」 母の話ではこのまま夕飯を一緒に食べることになったようだ。 すみません、と黒子は申し訳無さそうに眉尻を下げる。この様子からすると恐らく母に押し切られたのだろう。 「それは構わないけど、なにかあったのか?」 こんなに強引に引き止めるのは、母親でも珍しいことだった。 「黒子君、ダジャレが凄く分かるのね。反応が良くて、思わず色々聞いてもらっちゃったの」 なるほど、母が上機嫌なのはこれが原因か。納得と同時に、思わず苦笑した。